麗しの日本語

本日は徒然なるままに、日本語に対する私の濃い想いを綴ってみます。

言葉に強い反応を示し、思考を言語化することが大好物である語学オタクの私にとって、母なる日本語への愛の深さ及び熱量は相当なものがあると自負している。幼少の頃から英語を学び、正式に留学することなく英語を習得したので、今まで幾度も幾度も「日本語と英語、どっちが好き?」という質問を投げかけられて来た。その度に「断然断トツ日本語がどんな言語よりも一番好き。」と答えている。「日本語の方が英語よりも複雑で重層的で、その色調の濃淡が美しいから。」と。

英語、この場合は私が習得した米語、と言った方がより正確だろうか。高校生の頃に、エミリー・ブロンテの「嵐が丘」やディケンズの「大いなる遺産」を日本語翻訳で読んで、大学の英文学の授業でワーズワースの詩を学んだことはあるけれど、シェークスピアを原書で読んではいないし、クイーンズ・イングリッシュは話せないので、イギリス英語に関しては語る資格を持ち合わせていないのだけれど。(先日、ロンドンの大英図書館でエミリー・ブロンテの直筆原稿やジェーン・オースティンの文机を観て興奮したのは、得難い経験だったが。)

米語と日本語を比較考察した場合、まずその表現する対象についての含み、というか奥行き、またあと引く余韻や掛け言葉とその背景に見え隠れするものにおける言葉一つ、或いは文章一つが持つ陰影がまるで違う。例えるならば、米語の色合いは百色で事足りて、日本語は千色で成り立っているような印象を持つのだ。灰色はグレーであり、それを薄墨色や薄曇り色と言い表して微妙な違いや手触りを愛でて楽しむ、という発想は米語には存在しない。

うぐいす色はうぐいす色であり、黄緑とは絶対に違うのだ。うぐいす色や抹茶色、この色合いやこの呼び習わし方を美しいとする日本人の美意識こそを私は美しいと思う。日本語および日本人の精神性には「みなまで言うな」「饒舌は銀、沈黙は金」「奥ゆかしい謙譲の心」と言うものがあり、声高に雄弁に日本語の魅力や日本の美を主張するのは憚られて来た、というこれまた奥ゆかしい心がそこには隠れているのだけれど。

しかしながら、これは日本の歴史とアメリカの歴史を鑑みれば当然の差異かもしれない。アメリカは合衆国であり、多種多様なものが混じり合って誕生した、まだ二世紀半も経っていない若い国だからだ。イエスかノーか。正義か悪か。この単純な二元化は、ある意味多民族を統治してゆく際には、非常に明白で強力な論理になるのだろう。

私自身、幼少の頃にアメリカ人宣教師一家に出会い、アメリカに何度かホームステイしたりしてアメリカ人の友人も多く、ある意味アメリカに育ててもらったと言う意識があるので、現在のアメリカに対しては複雑な思いを抱きながらも、やはり感謝の気持ちは持っている。自分の人生にアメリカとの出会いがなかったら、やはりそれは面白みの薄い人生だったろうとも思う。言語を学ぶ度に自身の世界観が広がりを持ち、自分がより開かれて視界が地境が遠くまで延びて、より自由になってゆく。それは私の人生を貫く大きな価値観でもあるからだ。

大学でマレーシア語を専攻したことも、十代二十代の若い季節に東南アジアに深く親しんだことも、マレーシアの漁村にホームステイして決して過激派ではない穏健派ムスリムの暮らしを知っているのも大きな財産だ。そして趣味で遊びつつ韓国語やフランス語やドイツ語をかじったり。

しかし多言語を知り興味深く学び、様々な知識を習得すればする程、母なる日本語に対する思いはより一層深まってゆく。谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の中で語られている日本の心と美意識こそを私は誇らしく思うのだ。日本人としてこの日本に生まれたことの何たる恵み、と。この本は世界でも特に建築を学ぶ人々の間でよく学ばれており、日本なるものの美に強い憧憬の念を持つ人々は星のように数多存在している。日本語は幾重にも折り連なる陰影を湛える芳醇な言葉なのだ。

そしてこの文章を読んでいるあなたの母語が、もし日本語でないのなら、あなたはかなりの日本通ですよ。

Yayoi Kusama, Love and Peace

Love Affairs in The Tale of Genji

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